| @明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なお恨めしき 朝ぼらけかな |
| A朝ぼらけ 宇治の川霧(かわぎり) 絶え絶(だ)えに あらわれ渡る せぜのあじろぎ |
| B哀れとも いうべき人は 思おえで 身のいたずらに なりぬべきかな |
| C逢(あ)いみての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思は(わ)ざりけり |
| D逢(お)うことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし |
| Eあらざらん この世の外(ほか)の 思い出に いまひとたびの 逢(お)う事もがな |
| F今来んと いいしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな |
| G今はただ 思い絶えなん とばかりを 人づてならで いうよしもがな |
| H瀬を早み 岩にせかるる 滝川(たきがわ)の 割れても末に 逢わんとぞ思う |
| Iなげきつつ 独り寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る |
| J名にしおわば おうさか山の さねかずら 人に知られで くるよしもがな |
| K難波江(なにわえ)の 蘆のかり寝の ひと夜ゆえ 身を尽くしてや 恋いわたるべき |
| L難波がた 短き蘆の ふしの間も 逢わでこの世を すぐしてよとや |
| M春の夜の 夢ばかりなる た枕に かいなく立たん 名こそおしけれ |
| N人もおし 人も恨めし 味きなく 世を思うゆえに 物思う身は |
| Oみかきもり えじのたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思え |
| Pみかの原 わきて流るる 泉川(いずみがわ) いつみきとてか 恋しかるらん |
| Q見せばやな おじまのあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色は変わらず |
| Rおおけなく 浮世(うきよ)の民に おおうかな わがたつそまに 墨染めの袖 |
| S風そよぐ 奈良の小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける |